春一番、吹きまくる

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あぁ…分からない…相手の気持ちを見透かせる道具があればいいのに…それで本当に… 本当に、 本当に吉沢が私を好きなら… ………………… 好きなら? ちょっと待ってよ!好きなら何!! 私はそこまで考えて軽く首を降った。これ以上考えちゃいけない…まだ何も分からないのに… 「…寝る」 「へ?」 吉沢は何を思ったのかそう告げると座る位置をだいぶ前にズラして私の肩に頭を乗せて来た。その瞬間、私の体は岩のようにピキっと固まった。 自慢じゃないけど、今まで生きてきて彼氏なんて出来た事もないのよ。ましてや家族以外の男の人なんてほとんど関わった事もない。それなのに、こんな状況、どうしていいか分かんないわ! 心臓がウルサイほど鳴ってるのが分かる…肩越しに吉沢に伝わってないか気になって仕方ない。あぁ~手汗までかいてきた…降りる駅まであと40分はある… 今までとは違う居心地の悪さに思わずうつむいた。 頬に当たる毛がワックスのせいか微妙にチクチクして痛い。そっと手を伸ばして起こさないように毛を撫で付けてやった。セットが崩れても、凭れる吉沢が悪いのよ! ふと香る香水の匂いにまた心拍数があがる。私は小さく吐息を吐いてもらったネックレスを軽く撫でた。 ―こんなの…下駄箱に砂を入れられるより質が悪いわ… そんな挙動不審な私をコッソリ吉沢が見ていた事は、知るよしもなかった。 「あの…先輩?」 「………………………」 「もうすぐ駅ですけど…」 あれから、私はピークで緊張したまま長い40分と戦って、ようやく解放されると思ったのに… コイツは熟睡…うんともすんとも反応がなかった。置いて帰ってやりたいけど、明日が怖いからそれもできない… 「吉沢~…勘弁してよね…もぅ…」 大きくため息をついて、降りるべき駅が遠退いて行くのを見遣る。 いっそ私も寝てやろうかしら…本当… 吉沢が目覚めたのは終点のアナウンスが入った時だった。 「あぁ?…」 吉沢は体を起こして頭をかきながら周りを見ている。あぁ?じゃねぇよ!おせぇよ起きるの! 「………!」 いい加減不機嫌そうに周りを見て、私の顔を確認すると急に焦ったように「わりぃ!」と叫んだ。 おうおう、寝すぎた事も、私に手汗かかせた事も、挙動不審にさせた事も全部謝りやがれぃ!
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