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「起こせば良かったのに…」
「起こしましたけど…起きなかったから…」
「殴っても良かった…」
できるかぁぁアホ!そんな事できたらとっくにやってるわよ!!
困ったように笑っておくと電車は終点に到着。
「仕方ねぇか…折り返すぞ」
吉沢が立ち上がったのを見て自分も立ち上がる。
う…体が痛い…(泣)
「大丈夫か?」
「大丈夫です…」
微妙な態勢で歩くと吉沢はあろう事か私の腰を抱き寄せた。
「せせせせっ先輩!大丈夫です!」
「うるせぇ、黙っとけ」
「うぅ…」
慌てる私を見て吉沢は口の端を吊り上げて意地悪く笑った。
それから私達はたいして会話するわけでもなく、無事に駅まで辿り着き、私の控えめなサヨウナラは「家まで送る」というドスの聞いた声に流された。
「香緒、いつも何時に家出んの?」
別れ際、吉沢の言葉に7時くらいです…と答える。
すると吉沢は一度頷いて
「明日朝、迎えに来るからな」
と………
「いや、悪いですから…」
「あぁ?」
「いえ、お願いします…」
「良し」
どうして脅すのかしら…普通今の会話だったらさ、
『明日迎えに来るから』
『え?悪いです…』
『俺が来たいんだ…』
これくらいでもいいんじゃないだろうか…何がどうなって『俺が来たいんだ』が『あぁ?』になるのよ…。
それとも、遊びだから、思うようにいかないのは許さないって事?
そう思った瞬間、何故かチクリと胸が痛んで嫌な気分になった。
「香緒」
「はい?」
「……明日、寝坊はしてもいいけど、置いて行くなよ…」
最後に頭をボンポンと撫でて、吉沢は帰って言った。
予想外な優しい手付きにまた胸がチクリとなって、私は気づかないように吉沢の背中から視線を反らした。
約束通り、吉沢は朝の7時キッカリに家の前にいた。まだ早いからいいけどあんな銀髪不良が家の前にいたら、端からみたら質の悪い不良に目をつけられた家に見えるんだろうなぁ…って、質の悪い不良に目を付けられたってのは間違いじゃないけどね…
「おはようございます」
「ん…香緒、ネックレス付けてるか」
「付けてないですけど…」
「は?」
すがすがしい朝の陽気とは裏腹なオーラをいきなり出し始めるのはやめて!
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