春一番、吹きまくる

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それはキャラメルポッブコーン。 「先輩、甘いの好きなんですか?」 「結構な。嫌いだったか?」 「いえ、私も好きです…好きですけど…」 吉沢、こんななりして『キャラメルポッブコーンください』とか言ったのかしら…仏頂面で… 「ぶふっ…」 しまった。思わず笑っちゃった… 「何笑ってんだ」 「いえ…意外だなと……ふふっ…」 あ、やばい、ツボったかも… まだ隠したように笑っていると、吉沢は赤い顔をして歩き出してしまった。 何だか今日の吉沢はいつもよりソフトだわ…いつもこれくらいソフト吉沢ならもう少し楽なのに… 指定された劇場に入って二人して腰かけると、すぐに他の映画の予告が始まった。 「香緒は、こういう映画が好きなのか?」 「え…と、一人では絶対見れないですけど、見てみたいっていうか…」 要は怖いもの見たさっていうの? 「そうか…」 「先輩は苦手なんですよね?」 「あぁ?」 「ふふ…」 凄まれても今は怖くないわ。 「さっきから俺の事おちょくってるだろ…」 「まさか…」 その通りよ!とまでは言えないけれど、吉沢があんまり怖く見えないなんて、ついに私のネジ飛んだのかしら… 「チッ…」 吉沢は一度舌打ちすると「覚えとけよ…」と呟いた。その時の吉沢の顔は意地悪くニヤリと歪んでいて、ネジが飛んで調子に乗りすぎた事を激しく後悔した… 『あぁぁぁぁ…』 「っっっ!!」 『いやぁぁぁ!』 「っ~!」 映画の中で恐怖シーンになるたびに、私は必死で吉沢の左の手で目を覆った。 何故かっていったら怖くてすがる物が欲しかったけど、画面は見たくない、だけど気になるからチラッと見たいっていうチキン魂が炸裂していたから。 両手で吉沢の手をギュウギュウとにぎりながら目の前にセット、セットしながらかも吉沢の指の隙間からスクリーンを覗く。吉沢にしてみれば迷惑極まりなかっただろうけど、何も言われなかったから、そのまま左手を最後まで拝借した。 「はぁ~、終わった~」 明るい場所に出て思わず呟くと吉沢は呆れたように笑って 「ほとんど見てなかったじゃねぇか」 と言った。失礼な!見てたわ!あんたの指の隙間から! 「見てましたよ!指の隙間から!」 「俺のな…お陰でコレ食えなかった」 吉沢のいうコレとはキャラメルポッブコーン。
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