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「それっ!」
彼女の拳は、一撃必殺の威力を有していた。
放たれる破城槌の如き一撃。すでに瀕死である僕はそれを必死の思いで――事実、必死が必至なのだから――手を盾にして食い止める。
ガゴッ、と木材同士がぶつかり合ったような鈍く、そして乾いた音が響く。あまりの威力に体が僅かばかり後方へとずれ込むも、守りが功を奏してどうにか立っている。
「やぁ!」
けれど、だからと言ってそれで全てが終わった訳も無く、安堵を示す間すら無いままに、今度は鞭のように撓る上段蹴りが襲い来る。
それも手を盾にして守り抜いた。だが――このままではジリ貧であるのは確実だ。手と言う希薄な盾では破られるのは時間の問題である。
ならば、とるべき行動は反撃しかない。運良く、と言って良いのか、敵対者たる彼女もまたこちらの一撃で死に至る程に弱っているのだ。
「だぁっ!」
凌いだ蹴撃へと縫いこむように心臓を抉る拳を放つ。それで戦いが終わると言う、必至の一撃。
だが――
「てぇい!」
彼女もまた、蹴撃から間を置かずに拳を放った。
それは、既に計算された、彼女からしても必至の道筋だったのだろう。ただ、訪れる結末が、僕が思い描くのとは違うだけで。
互いに描いた結末は、必ずどちらかを駆逐する。勝負に平等などありえない。勝負は、勝ちと負け――不平等な価値を差配するものだ。
――そして、駆逐されたのは、僕だった。
それはおそらく、思考速度の問題だったのだろう。
僕は、隙を利用しようと、蹴撃の後に行動を起こした。彼女は、あらかじめ決められた道筋を辿った。その差が、コンマ一秒を争う場において、致命的であり決定的だったのだ。
故に、拳は胸部へと打ち立てられ――
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