枯れた華

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私は鳴海咲奈(なるみ さな)。 3年間の看護学校生活を終え、人生初の社会生活へ飛び出したばかり。 毎日息をつく暇もない忙しい看護師としての仕事内容に充実感を覚え、新しい自分を歩み出している。   今日も忙しい業務を終え、疲れた身体を車のシートに投げ出す。 フーッと一息つき、横目でケータイを見ると、『新着メールあり』の表示が点灯していた。 疲労感でメールを読む気力などなかったが、彼からのメールだったら返さなきゃいけない。 まぁ…返信しなくても、さして彼は困らないだろうが…。   『明日 家来る?』   いつもの決まったメール内容。 私は、少し返信するのを迷った。   浜野 達(はまの たつ)。 看護学生中に出会い、付き合い始めて1年半を過ぎた。   出会った時の印象は、一言で言えば「遊んでそう」。 でも印象とは違った誠実さ、心に秘めた「医者になる」という強い意志。自然に溢れた彼に次第に惹かれていった。   学校に近い所に彼が住んでいたのもあって、暇さえあれば会いに行った。 彼も、予備校やバイトが休みの日は、私の元へと会いに来てくれた。   彼と過ごす夏の海も、彼と行くドライブも…全てが新鮮で、仕事を始める時、会う期間が少なくなることを恐れる程に愛していた。   フッと我に返る。 車内の暗闇に光るディスプレイ。 自嘲気味に笑い、慣れた手つきでメールを返す。   『うん♪楽しみにしてる!』   返信し終わった後、深く溜息をつき、全身の力を抜く。   1年も経てばこんなもん。 アレだけたくましかった彼も、今では「ただ側にいる人」。   気付けば、あれだけ楽しかったドライブの回数も減り、私の話も彼の耳を擦り抜け、会えば背中合わせて1日中寝ているだけ…。   ケンカすら…まともにしなくなっていた。
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