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瞳矢は電車を降りて、階段に向かって歩き出す。午前六時半を回ったばかりのホームは、まだ閑散としていた。
もうすぐ春だと言うのに、朝の風は冷たく、睡魔との戦いを邪魔する。
瞳矢は大きな欠伸をしながら、震えた携帯を取り出した。
『送信者:お父さん 件名:仕送り』
内容は見ずに携帯を閉じる。
返信は後で良い。今はとにかく早く帰って寝たい。
昼からバイトなのに、オールしてしまったことを今になって後悔するが、若気の至りとして納得することにした。納得したところで、睡魔は身体の中を蝕み続けている。
そんな瞳矢の目に入ったのは、階段付近で大きなキャリーケースを転がす女の子だった。
階段の前で困ったかのように立ち止まった。恐らく、どうやって自分の身長の半分はあるキャリーケースを下まで降ろすのか、考えているのだろう。
瞳矢はゆっくりと近付いて声を掛けた。
「良かったら、手伝おうか?」
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