0人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
「彼女は妊娠していました」
男は老人の言葉を遮るように言った。
「でも、彼女は死んでしまった。
僕の子供も、一緒に死んでしまった…。
そして、どうしよもない僕だけが、生き残ってしまった…」
スーツ姿の男は苦笑した。
――いっそ、僕も一緒に連れて逝ってくれれば良かったのに。
僕にはもう、守るものも生きる意味も、何もなくなってしまったのに…。
スーツ姿の男はゆっくりと顔を上げ、老人を見つめる。
「…ええ。
彼女が轢かれたのは、あなたの息子さんが運転していた車でした」
彼が一瞬覗かせた、恨みに似た表情に、老人の顔が強張った。
「も…申し訳なかった」
そう言って、老人は頭を下げる。
最初のコメントを投稿しよう!