雨の日の真実

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「彼女は妊娠していました」 男は老人の言葉を遮るように言った。 「でも、彼女は死んでしまった。 僕の子供も、一緒に死んでしまった…。 そして、どうしよもない僕だけが、生き残ってしまった…」 スーツ姿の男は苦笑した。 ――いっそ、僕も一緒に連れて逝ってくれれば良かったのに。 僕にはもう、守るものも生きる意味も、何もなくなってしまったのに…。 スーツ姿の男はゆっくりと顔を上げ、老人を見つめる。 「…ええ。 彼女が轢かれたのは、あなたの息子さんが運転していた車でした」 彼が一瞬覗かせた、恨みに似た表情に、老人の顔が強張った。 「も…申し訳なかった」 そう言って、老人は頭を下げる。
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