第1章・事件発生

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「ただいま」 三島三郎は疲れきった様子で帰って来た。本当は声を出すのも辛いのだが、何か言わないと妻を怒らせてしまうだろう。 今あいつを刺激したらまずい…。なるべく怒らせずに…。 三島はずっとそんな事を考えながら帰って来たのである。 三島は今年で60歳を迎えた。36の頃から有名会社の社長であった。 その社長が今日、なぜそんなに疲れて帰ってきたかというと、テレビに出演してきたからだった。そう、三島の会社はなかなか有名で、日本の会社トップ5には入るだろうと言われているほど凄かった。 「…ただいま」 一回言っても誰も出て来なかったので、三島はもう一度、さっきより強い口調で言ってみた。 三島は子供の頃から、思い通りに行かないと気が済まないタイプだった。だから、三島が「ただいま」と言って、誰も出てこない事は許されなかった。 すると、今度は聞こえたのか、丸々太った豚が…いや、太った女が出てきた。普通、こんな不気味な女が出てくるとギョッとするものだが、三島はびくともしなかった。 「お帰りなさいまし」 太った女はキーキー声でゆっくりとしゃべった。どうやら、この口調から考えると、この女は女中であろう。 三島はこの女に着ていたコートを脱いで渡すと、用意してあった食事には目もくれず、自分の部屋に入って行った。
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