*手を伸ばす*

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  ねぇ ねぇ ずっと見てるんだから知ってるでしょう…? 雲はさ千切れて形が変わるんだよ あの広い空で独りぼっちになったみたいに小さい雲 見たことあるでしょう? 「お前といると…お前と一緒に雲見てると…なんでかわからないけど、自由になれた気がするんだよ。」 うん、本当にわからない。 わけわかんないよ…新 でも でも 嬉しいよ。 もう何年も前 自分の目に映る低い世界が、全てだと思っていた 背が伸びるたびまた世界は広がるのだけど ずっと ずっと いつでも空に手は届かないでいた 大人におぶられて、おぶられて 見るその景色、その高さ そこから手を伸ばしても やっぱり空には届かなくて、雲は掴めなくて 早く 早く もっともっと大きくなりたいと願っていた。 でも、本当は空に手が届いても 何もないことを知っている自分がいて きっとあなたも同じだと思う。 何か掴めるとは思っていません 何もないことを知っています 知っているのに、あなたは空に手を伸ばすから 知っているのに、あなたは空を仰ぐから 「雲はいいよな。…莉海」 「…うん。」 何もないと知っているのに 届かないことを知っているのに あなたは手を伸ばすから あなたは空を仰ぐから その優しさが、痛くて痛くて 愛しくて、私は泣いた もしも、あなたが雲になって千切れてしまって あの広い空で独りぼっちになっても大丈夫なように 私はどこまでも続く、あの青い空になってあなたを包みたい あなたが雲になりたいなら 私は空になってあなたの傍に ―――終わり―――    
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