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プロローグ
第2セクター辺りを無心で駆けていた。
駆けていると言っても、本来であれば疾走の際に感受する頬を撫ぜる風は然り、
疲労や息切れとは一切無縁で、
リアリティーを問われれば皆無なのだが。
強いて言うなら指だ。
指先と精神が困憊した。
『もうちょっとやで、拓馬』
きっと目に映るこの簡素な文が声帯を通り発せられるなら、
高らかな激励であり、終着地点にはヘラッとした鷹揚且つ根柢を包み隠した笑みが待ち構えているのだろう。
だが前述に記した様、そこにリアリティーは存在しない。
疾走すれば壁にぶち当たるだろう、四辺形の内部に配置されたベッドの上に、
彼は身体を横たえていた。
「………」
漸く『もうちょっと』から解放された現状に、
盛大な溜息を漏らしながら。
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