CASE1:タカシ

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怒鳴られると声が出なくなった 体が硬直して 咽の奥で誰かが邪魔してるみたいに 声を出そうとしても、口はただ開いたり閉じたり 音の代わりに呼吸が洩れるだけ いつからだったっけ あいつはいつも俺を、頭ごなしに怒鳴っていた 「タカシ!どうしてあんたはいつもそうはっきりしないの!?」 「なんとか言いなさいよ!!」 何か言わなきゃ そう思ってあいつに反論したこともあった 何年も前 「         」 「そうやって勝手なことばかり言って。あんたのやることなすことはほんとに最低で信じられないよ」 あいつの一言一言が 鋭利な刃物みたいに俺をずたずたにした 何かを言うとまた怒鳴られる 何も言わなくても怒鳴られる 俺が周りのタメのやつらと比べて悪いとかそんなことはなかった…‥はずだ 普通に学校行って 普通に受験生してて でもまあ、あいつは誰に対してもヒステリーだった 父さん、俺、兄貴、姉貴 あいつがこんな性格になったのは父さんのせいだ 昔から給料全部飲み代に換えちまったり 酔っ払ったままその辺で寝て給料袋盗まれたり 枚挙に暇がない
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