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人は欲深い。
人は欲深い生き物である。
落ちているモノも、取り合い、奪い合い、勝ち取らなければならない。
全く。笑い事である。
「世も末人も末。世紀末とやらかねえ。うん。まあ、そんなこたあどうでもいいんだけど」
甚平の上だけを着、下には黒地のズボンを穿くという格好をした、変人が声を上げた。
変、などとは言って欲しくはない。
これは僕の個性である。
個性を笑う者は個性に泣く。これ我が抱負なり。
「ああ、いやいや違ったな。君と……そこの君。そうそう君達。ちょっと退いてくれないか、そこを通るには君達に退いてもらうしかないんだが。にしても顔が見事に真っ黒だねえ、なんだ、流行なのかそれが。やはり世も末か、若い者がこんなのでは…、おっと失礼、こりゃ失言」
あんな化粧をするよりも、もっと淡い化粧のほうが、男は寄付くという事に気付かぬ哀れな女な事だ。
まあ、僕が気にする事ではない。そうだ、さっさと退いてくれないか。
しかし女達は僕の風貌を見て、大袈裟に笑うと、また戦場へと体を向けた。
一つの小さな籠に詰められた品々を奪い合うという、女にとっての戦場。
男である僕には一向に理解し難いモノだが、まあ福袋の一種とでも思えばなんとなくシックリくるものを掴めないこともない。
まあとりあえず、
「どいてもらわないことにゃ始まらんのだよ。ほらごめんよ」
ヒョイっと女二人をそこから退かし、ずいずい前へと進む。
後ろから罵倒が聞こえようが構ったものか、君らが悪いんだ。
先程の小さな戦場から十数歩歩いた先で僕は止まった。
そして振り向くと、右手に紐の付いた鈴を持ち、シャンシャン、と鳴らす。
鈴の凛とした音の輪が店内に広がる。
よし、これでいい。
後は踵を返しこの場を去るのみだ。
僕はそのまま有言実行。
素早く店内から抜け出した。
その後に続くかのように、店にいた客がゾロゾロと店を出て街中へと次々消えていく。
店員もこれには驚いて、慌てて客を呼び止めているのがこちらからは見てとれる。
ははは、今回も大成功のようだ。
僕の仕事は『欲』落とし。
物欲性欲何でもござれ。
欲の塊を落としに今日も街をうろつきます。
つまり、商売繁盛の神様の逆、不利益の神様ってことなのさ。
「さぁて、本日も落としにいきますか!」
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