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うつくしいなまえ
最初は、ただ疲れたんだろうと思っていた。
知識がない俺には、彼女に施されていく作業が何なのかわからなくて。
ただ、誰にも聞こえないくらいの声で彼女の名前を呼んだ。
起きる。そう思っていたから。
それでも、彼女は目を覚まさないから、なんだか寂しくなって涙が出そうになった。
「 」
掠れかけた声で呼んだら、なぜかその一言が静かに響き渡った。
たくさんの管で繋がれた彼女、ガラス越しに俺は彼女を見ていた。
誰も、世界に入ってはこない。
二人だけの、世界。
ガラス越しなのに、彼女の呼吸も鼓動も、全てが聞こえてくる。
だけど、彼女は目を覚まさない。
これは、俺への罰なのか、とガラスへと拳を叩きつける。
彼女がこうなることを知って、知らない振りをした俺への罰なのか。
何もすることの出来ない無力な腕。無意味で価値の無い腕。
こんなもの無くなってしまえばいい。
「 !! !!」
彼女が目を覚ますなら、何度だって呼んでやる。
彼女が目を覚ますなら、何でもくれてやる。
世界よ回れ、俺と彼女だけの二人の世界。
たった二人だけでいいんだ。
離れないように、呼吸も出来ないくらい小さな世界でいい。
何度だって呼んでやる。
彼女がこうなって気づいた、彼女の名前の大切さ。
彼女の存在の大切さ。
彼女の美しさ。
「なあ、 !!」
何度だって呼んでやるよ。
だから目を覚ましてくれ。
うつくしいなまえ/バクホン
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