梅雨

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梅雨

よしよしよし。いいかよく聞け。梅雨という湿気の多い時期に何でこうも不快な気分にならなければいけないのか。天気は厄介なまでに不確かだし、天気予報士の信頼もあったもんじゃない。 黄土色に染まった空を見上げては、どちらともハッキリしない空模様にキレてみたりもする。降るなら降る、降らないなら降らない、と空に言ってみたいものだ。空に言った所で何か変わる訳でもないが。 「あーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあ。何で黄土色なんだ。何か恨みでもあるのか、いやない。これは反語を使わせるための天気なのか。そうか、そうなのか。じゃあ思う存分使ってやろうじゃないか。いいとも私の心は寛大だ。寛大かつストッキングの糸のように細い。キレたら何をしでかすか解らないのが私の長所であり短所だ。受けて立とうじゃあないか空よ」 ビシッと人差し指を天に向けて刺す。道行く人が私を怪しむ目で見てくるが、そんな物知った事ではない。雨が降るか降らないかの合間の中、傘は持たない。ビバマイポリシー。勿論雨が降ってきたら上から下まで水浸しになってしまうが。水も滴るいい女だ。見惚れるとヤケドするぜ。かっこキラーンかっこ閉じ。…決まってない?いや決まった。 「姐さん姐さん。頼みますから真昼間から変な事しないで貰えませんか、俺の為に」 「なんでお前の為に私が我慢しなければいかんのだ」 「白昼堂々変な事するからに決まってるじゃないすか」 「私は今お天道様に喧嘩を売ったんだ。逃げるわけにはいかないだろう」 「お天道様とやらに喧嘩売る姐さんの気が知れません。ていうか普通喧嘩売らないっす。お願いですから人間全うしてくださいって」 「さも私が人外みたいに言うな」 「冒頭で百面相しながら思想に耽るようじゃもう人外になるのも時間の問題っすよね。…ほら、姐さんとグダグダ言い合いしてる間に雨が降ってきたじゃないですか」 べと、と額に雫が落ちる。降り始めの雨は酸が混ざっている説があるのにまったく。酸が混ざっているということは溶けるのか。私は溶けるのか。 「決めたぞ」 「へ?」 よしよしよし。よく聞け微妙な色した空よ。微妙な色で不快にさせたあげく、酸混じりの雨を降らせるその根性………気に入った!だから酸で私を溶かすのを今すぐ止めろ!いや止めてくれ! 「姐さんただの馬鹿っすね」  
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