黒井契は何もしない

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地獄の類義語として奈落という言葉を知ったのは、いつだっただろうか。   なんにせよ僕は奈落より地獄より蓮獄のほうが強そうだよなぁ、なんてことを思ったものだった。   それは単に名前の語感だけの感想で、深い意味などなかった。   この世界には地獄なんて、奈落なんてない。あったとしても生温く、生緩い蓮獄程度なものだろう。   しかし、生温く、生緩いからといって地獄より幸せかどうかなんて定かじゃない。   そう、これはまだ僕が中学校に通う普通の生徒だった頃の話だ。そんな長大な話ではないし、お涙頂戴な物語でもない。蓮獄少女鮫口絆のお話だ。   怪しい薬の売っているお店も出てこなければ不不不の野郎も出てこない。でも大丈夫、だからといってのんびりと、まったりと物語が進んでいくわけでもない。   僕の幼稚園時代を圧倒的に塗り潰した未来殺しの黄須川不不不と蓮獄少女鮫口絆が出会ったら、何が起き、何が承り、何が転び、何が結ばれるのか興味は尽きないがそれはまた別の話だろう。   ただ僕のクラスには鮫口絆がいて嵐山ねこがいて、僕が、黒井契がいたってだけだ。   前おきはもう良いだろう。そろそろ物語を語りだそう。   あれは、そう。高校受験が差し迫ってきた冬のことだ。
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