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「先生。私…さっきまで迷ってたんです。」
「…?」
「なにもかも捨てる覚悟を決めますって言うか、今のままで我慢しますって言うかです。」
「…それで、どっちに決めたんだ?」
美里は困ったように眉をよせて泣き笑いのような顔で笑った。
「どっちもやめました。」
「どういうことだ?」
「さっき桜の花びらが舞うのを見てて急に思ったんです。このままよりももっと先生の近くに行こう。でも、あせることはないって。」
司の問うような視線に美里は重ねて続ける。
今日は泣かない。
強くなりたい。
そう決めたから、じっと見つめてもう1度頑張った。
「先生を信じて待ちます。でももっと会いたいんです。だめですか?」
司がクスリと甘く微笑んだ。
「先生?」
美里の腰に回った手がもう一度引き寄せてきて先ほどよりも強く抱きしめられる。
「君にはかなわない。」
耳元に囁かれる声も甘くて、くすぐったくて、美里は目を閉じて頭を胸に預けた。
「先生。私…信じますから。」
返事のかわりは髪に寄せられた口付け。
そっと、約束の印に。
2人は桜の舞う中、ずっと花びらの祝福を受け続けた。
花びらの行方は予測不能。
でも、2人なら、いつか掴むことができるかもしれない。
そう信じたい。
―完―
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