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素知らぬ顔で、やり過ごそうか?それとも挨拶したほうがいいのか?
美里が迷っている間に、男の人は、美里の前で立ち止まった。
「…?」
端整な顔だちで、長身。落ち着いた、とても気品のあるスーツの似合う大人だ。
少し冷たい印象があるが、いい男には違いなくて、こんな人は校内で見たことはないし、女子の間で話題になったこともない。
まさか、ぼーっと花見をしていたことを怒られるのだろうか?
美里が恐る恐る顔をあげると、彼は、
「綺麗だな。」
と言った。
(ああ…花見仲間かあ)
美里はほっとしてうなずいた。
同じように桜を感じてくれる人は、単純に嬉しい。
「私も、あんまり綺麗なものだからみとれちゃってました。」
「…。」
なぜだろうか?
彼は数秒、じっと美里を見つめ、それからふっと柔らかに微笑った。
美里は首を傾げる。
「確かに、桜も綺麗だな。」
彼は、桜を見上げて言い、また美里に視線を戻して微笑んだ。
「でも、僕が綺麗だと思ったのは、君だ。舞い散る桜の下でたたずむ君が、美しいと思った。」
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