非日常の展開(終わる日常)

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脳内の回路が悲鳴を谺させ、それと同時にもう一つの感覚が川上の意識を蹂躙する。 (アイツは行ったか!?) 視認など出来ない、時間が無さすぎる。だから彼は尋ねる。 自分の中に住まうもう一人の自分に。 【かなり危なっかしいが何とか離脱出来ているようだな】 水晶を連想させる高く、硬質に澄んだソプラノ。 その声の主は、 【後顧の憂いを断った所で次の課題だ。予測時間では接触まで三秒を切ったのだが】 頭上から落ちる影は黒く、大きくなり、 (三秒あれば十分だけどな)少年は振り仰ぎ、 右腕を、突き出した。 硬質な、金属同士がぶつかり合う音。 間髪置かずに、降ってきた異形は飛び退いた。 笑い声が響く。 [アハハハ、久し振りだねぇまた会えて嬉しいよ感激の至りだ] 鼓膜ではなく、脳に直接届く、不快な声の主は、まさに異形と呼ぶべき姿。 車やバイク、鋼の部品で構成された前傾姿勢の獣然としたモノの頭に相当する部分に、ちょうどブリッジの体勢で、幼い少女が、文字通り融合していた。 恐ろしいのは、その少女がまだ生きていた、という点だった。虚ろに開いた目、だらしなく開けられた口からは、涎が流れ続けていたが生命はまだ続いていた。「俺としては二度と会いたくなかったけどな」 そんな醜悪なモノを前にして、眉間に皺を寄せながら川上は吐き捨てる。 彼の右腕もまた、異形と化していた。 黒く、完全に黒く染まった腕は、左腕と比べて一回り大きい。手のパーツも、ゴツゴツとして節くれだっている。まるで、鬼の腕のように。 [まあそんな邪険にしないでくれよ。こっちだって余り君たちのようなイレギュラーの相手などしていられないんだからさ、貴重な顕現回数を無駄遣いさせないで貰えると嬉しいんだけどねぇ…] 言う間にも、場の空気が鋭くなっていく。 ギョロリ、と感覚器としての人体、その眼球が動く。「心配すんな。もう気にしなくていいぞ。…これでお前の楽しい旅行は終わるんだからな」 あまつさえ、にやにやと笑いながらすら川上は嘯く。[…上等だよ。どっち付かずの出来損ない] 硬質化した空気が、名前を得る。 殺意という名を。 風が一陣吹いた後。 状況が、動いた。
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