(あるいは序章と呼ぶべき時間について)

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公園があった。団地の隙間を埋めるようにある、滑り台とベンチだけの小さな公園。 そこに、彼はいた。 黒いTシャツに履き古したヴィンテージのジーンズという普通の格好で、煙草を燻らせる。 無数の“存在”たちの残骸の上で。 “存在”は、こちらの世界にある物に自らの存在を‘上書き’することで自身を確定させる。その対象はヒトと言えど例外ではない。だから、発生が予測された地点には避難勧告が出されるのだ。 人の気配が消えた空間に、紫煙がたゆたい、消えていく。その軌跡を何とはなしに見つめている青年は、もう幾年も“存在”と戦ってきた。あの日、自分を介して発生しようとした“それ”を滅ぼしてから。 もう過去は思い出さない。けれど。 戦って過ぎる毎日は継続し、それに飽きることもない。 自嘲的に笑い、フィルターぎりぎりまできた煙草を、その掌に押し付けた。 ジッ。 何かが焦げる音がして、それで終わりだ。痛みもなければ、感慨もない。 もう一度、嘲笑った。 ヒトであることを放棄して、ヒトでないモノを滅ぼす自分を、哀れむように。 歩き去る彼の背後で、さらさらと残骸たちが砂と消えていく。
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