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それは、突然だった。
まだ幼い頃、家族が全員いた時のこと。
(あれは、…何をしてたんだっけか)
記憶が不鮮明でよく思い出せないが、団欒のような和やかな雰囲気だったことだけは、はっきりと覚えていた。
妹が居て、父が居て、母が居た。皆、笑っていた。
人の気配がなくなった街を歩きながら、記憶の映像だけが脳裏に投影される。
まるで、擦りきれそうになった映画のフィルム。
何事か、父が喋る。
母が応じ、笑う。
妹が拗ねた様子を見せた。そして、自分が何かする前に。
惨劇が、起きた。
脳の映写機のスイッチを無理矢理に切る。結末の分かっている陳腐なスプラッターなど、余程病んだ人間にしか需要はないだろう。
もはや、その結末は自分に何の感慨も呼ばない。
意識を、現実に戻す。
隣を歩く後輩は、何やら思案顔をしていた。
「どうした?」
声をかけると、はっとした様子でこちらを見、
「いやふとした疑問なんですけどー、何で政府って予測出来るんでしょーか」
「文の要素欠けまくりだけど一応気持ちは汲んだから答えるとな、何か色々法則とかあるだそうだ。よく分からんけどな」
「ぼやかしすぎじゃないですかー。要するに先輩にも分かんないですね?」
不満そうに唇を尖らせる成田。その姿は、何故か妹を川上に想起させる。
少し、
頭痛が。
声が響く。
妄想にしてはやけにクリアな、澄んだソプラノ。
【…来る】
急に立ち止まった川上を、成田は心配そうに見遣り、【接触まで残り十秒】
告げられる意味は承知済み。だから、
彼は、後輩を少し乱暴に前に突き飛ばし、
【出現地点、…現在地点の、…上空!】
叫んだ。
「走れ!」
直後。
空が、歪んだ。
青かったものが、更に蒼く、濃い青に。
少年は、知っている。
そこから訪れるのが何者であるかを。
嫌と言う程、熟知していた。
降ってくる。
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