非日常の展開(終わる日常)

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成田・遼子は、至って普通の女子高生だ。少なくとも、自分ではそう思っていたし、事実周囲の人間からもそう評価されていた。 美術部に入ったのも、少し気になる先輩が在籍していたから、というややミーハーな、しかしごく一般的な理由からだった。 そして、部の中でそれなりに存在を認められ、意中の先輩とも会話が出来るようになった。 彼女はそういうかなり平穏な日々が、ずっと続くと信じていた。“存在”という非日常的な存在が、日常にその影を落としていたとしても。 だが、その甘い希望は、余りにも唐突に、あっさりと打ち砕かれることとなった。 ドン、と肩を押され、 「走れ!」 怒鳴られた。 混乱する頭に、更に言葉が突き刺さる。 「早く走れ! もう時間がない!」 切迫した表情、真剣な声色。何よりも、突き飛ばされた直後にその場に満ちた、尋常ならざる空気に、身体が反応した。後退りし、踵を返す。 そのまま、全力疾走。 怖い。 怖い。 駄目だ。 彼処に。いたら、 自、分が、自(成田)分では(遼子で)は なくなってしまう。 逃げなければ。 殺されるなど生温い。 あれは。 あの存在は。 次元が、 余りにも、 在ることが否定される。 違いすぎる。 彼女を走らせているのは、結局の所、生物種としての純粋な生存への欲求。 どのくらい走った所だろうか。視界に、一台の車が入った。自衛隊のジープ。 そこで、緊張の糸が切れた。足がもつれ、地面に倒れ込んでしまう。 呼吸が、震え、動悸が止まらない。 ただならぬ様子を見た自衛隊員が駆け寄り、彼女を助け起こす。 声がかけられるが、上手く聞き取れないし、呂律が全く回らない。 ただ、一つだけ、気掛かりがある。 「、先輩は、先、輩…」 譫言のように呟きながら、成田・遼子の意識は奈落に墜ちていった。
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