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その日僕は、生まれて初めてと言えるくらいに能動的だった。
歌いたい歌を叫び、彼女の歌を聞いて、出来る限りその場を楽しもうと他愛のない会話を繰り返す。
会いたい人にやっと会えた。そんな高揚感が僕を包んでいた。理由はわからない。
だから僕は、少し周りが見えなくなっていたのかもしれない。
街のネオンに人は霞むのに、満足そうに背伸びをした彼女の方が目を離せなかった。
「あー!楽しかったー!」
そう言って、思い出したように笑う。
「実はね、馬鹿みたいな偶然、聞いてくれる?」
「うん?」
「私も昨日、彼氏にフラれたの」
僕が盛大に目を見開くと、彼女は快活に笑う。
「だから励まされたのは私の方!びっくりした?」
「うん……」
唖然と頷くと、彼女は下を向く。上向きの睫毛が淋しげな影を落とした。
「どうしようもなく寂しくて、なのに誰かといるのが怖かった。そんな時――」
細い人差し指が僕の目の前に現れる。飾り気のない、自然な色をした爪先。
「君が現れた」
漆黒の瞳は憂いを帯びて僕を見つめる。
「私以上に寂しそうな目を見て、これはもう一緒にいるしかないと思ったんだよ」
どちらからでもなく、指先が触れる。夜の空気に、冷えすぎないようにと。
「「ありがとう」」
同時に言って、同時に吹き出した。
「ねぇ、これからも――」
淡い車のライトが、次々に僕らの横を通り去る。
一瞬の羽音のようなそれよりも、僕には気になる音があった。
「貴方に――が、あるのなら――」
「え?何?」
地鳴りだ。彼女の言葉が抜け落ちる。酷い。こんなにも酷く音を吸った事などないのに。
近づいてきているようだ。
「――危ない!!」
一瞬世界は音を捨てて、僕は空気を泳ぐように緩慢に彼女を押し出した。
脇見運転の車は、歩道を歩く二つの影など目に入らなかったらしい。
そのまま電柱に追突。弾かれた僕は車道に転がったけど、僕に弾かれた彼女は無事だった。
「――美咲くん!!」
悲痛に震える空気は、遠い記憶を呼び戻す。やっぱりこれは懐かしい声だったんだ。
そうだ。
このために、僕は
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