空を忘れた天使は

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地鳴りがする。 それは僕の耳の奥でだけ、鮮明に何かが崩れ去る事を告げる。 陽光の下で熱されたアスファルトを踏んで、彼女を待つまでの間、友人の言葉を思い出していた。 「それ幻聴じゃね」 ぶっきらぼうな口調の裏に、配慮の意味を込めている。 シンプルなTシャツに古着のジーンズを着こなす彼は、島原灰斗(シマバラカイト)高校時代からの友人だ。 黒髪に、誂えたような大きいつり目。 眉間に皺を寄せるだけで人を威圧する視線は、その奥にひどく優しい物を秘めている事を僕は知っている。 真摯な言葉には頷きを返しておいた。 こんな彼だから僕は20歳になってまで相談をしていて、飾らない瞳は僕の全てを見通し、それ以上は言うまいと煙草に火をつける。 「明後日の同窓会、お前行くの?」 「同窓会……?」 そういえばアパートの郵便受けに葉書が入っていた気がする。 もとより答えは決まっていたので、よく見もせずに捨てたが。 「行かないよ」 何処でするのかも知らないし、クラス内の友人なんて灰斗くらいだ。 いや、もう一人いるか。 「何かそういう場所って、行っちゃいけない気がするんだ」 「行っちゃいけない?何で」 漆黒の瞳は不思議そうに僕を見つめ、薄い唇からは紫煙が舞い踊る。 時刻は昼下がり。 遅い昼食を切望する人々に店員の甲高い声は眩しい。 「いらっしゃいませー!」 「――過去を共有する場だから」 「え?今何て?」 「ううん。何でも」 僕はチーズサンドを平らげると、彼の分のお代も払って店を出た。 灰斗は眉を寄せる。 千円札を僕に突っ返した。 「だからやめろって。そういうの。俺はもうお前を友達として見てるし、施しを貰う程いたいけな子供でもねえ」 肩を掴む力は確かに痛い程強くて、過ぎ去った時間を何だか空虚に感じながら、そこに握られた千円札と彼の手に触れた。 _
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