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「私達が付き合い始めてもう2ヶ月……私、凄く長く感じたの」
そう言ってアイスティーに手を伸ばす。僕はコーヒーをすすって、ここが灰斗と来た店である事をぼんやり思っていた。
「貴方って何もしないじゃない。電話もメールもいつも私から。最初はそれでも良かったけど……好きなんだから」
昼を少し過ぎたくらいの喫茶店は、前来た時よりも空いていた。あちこちに熱っぽい目をした男女が座っている。
僕が違う所に視線を馳せていると、聞いてるの?と言わんばかりに彼女と目が合った。
「どうでもいいんじゃないかって。貴方は私が居なくても。もともと私から誘ったんだし……いなくなったって――」
「別れたいんでしょう?君がそうしたいのなら、僕はいいよ」
僕はやんわり微笑んだ。色素の薄い彼女の瞳を視線で撫でて、君が幸せならそれでいいと、伝えたつもりだった。
それに返って来たのは、大粒の涙だったけれど。
「やっぱりそうなんだ。いくらわがまま言っても迷惑かけてもちっとも怒らなくて、でも喜んでる訳でもない……だからっ」
彼女は立ち上がる。椅子が擦れる衝撃に床は鳴いて、それは声と一緒に僕の鼓膜を裂いた。
「私が何をしても、貴方の歩く道は変わらない。たとえ……別れると言っても」
震える吐息を飲み込むように、唇を手で覆う。僕から目を背けて、店を出て行った。
終焉を告げる鐘のように、氷がグラスを叩く。
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