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意思のない美しさ、とでも言うのだろうか。
彼女たちの言葉を聞いていると、そんな風に思えてならない。
総じて僕が相手を想う事は、そんな言葉になって返って来る。
――まただ。
耳の奥で地鳴りがする。
まるでこのままにはしないと脅すかのように、内側から僕の意識を切り崩す。
いつか無くなってしまうように。
「あれー?美咲君だ」
冷え切ったコーヒーを睨んで身を竦めていると、突き抜けた明るい声が僕を包んだ。
「……水上?」
「そーそー!よくわかったねー!……って、あんまり変わってないか。美咲君もすぐわかったっ」
語尾を跳ねるようにして人懐っこく喋る彼女は、水上零良-ミナカミレイラ-高校の時の同級生だ。
僕と同じ美術部でありながら陸上部にも在籍していた彼女は、当時は男子と見分けがつかなかった程の短い黒髪を長く伸ばして、日に焼けた肌は元の色を取り戻し、白く透けていた。
向日葵の似合う活発な少女は、いつの間にか百合を持つのに相応しい女性に変わってしまったらしい。
「ここ、座っていい?……って誰かいるのか」
残されたアイスティーを見て瞬き、僕に問い掛ける。
「構わないよ。もう……帰ったから」
ふーん。と濁して彼女は椅子を引いた。先程とは違う優しい音が、傷んだ鼓膜に暖かい。
「それにしても美咲君は本当に高校の時のままだねっ。見てすぐわかったよ」
「そうかな。水上は……変わったね」
「ははっ。まあ陸上辞めたしねー。女っぽくなったでしょ」
「うん。綺麗になった。それに……」
「それに?」
覗き込む漆黒は、吸い込まれそうに深い。雪のような肌に際立つ唇。小さな鼻。
緩いウェーブのかかった髪は澄んだ声とともに揺れて、あの日の夢を思い出す。
「似ている。彼女に」
絵の中に現れる、僕だけの天使。
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