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「似てる?私が?あの彼女に?」
僕が瞬くと、あ。と声を漏らして口に手をあてた。
眉を下げて、子供のように舌を出す。
「実は聞こえちゃったの。会話、全部。私の席そこだから」
そう言って、僕のすぐ斜め後ろの席を指差す。
派手な会話が聞こえて振り返れば、何と片方は知人で二重に驚いた事を困り顔で彼女は語った。
「ごめんね?本当は黙って去るのが一番かなと思ったんだけど……放っとけないっていうか、何て言うか」
顔の前で両手を合わせて、こちらを伺うように上目を覗かせれば、怒れるはずもない。
もとより、怒る気もないのだけれど。
「いいんだよ。ありがとう」
叱られた子犬のように愛らしい彼女に思わず口元が綻んだ。優しく言ったつもりだったけれど、対する彼女はみるみる怒気を帯びていく。
「あーもう辛気臭ーい!!」
弾けたように叫び声を上げて、立ち上がった。
「こういう時のためにカラオケがあるんでしょう!パーッと騒いで忘れよう!」
「いや僕は大丈――」
「聞いてない!」
そして慌ただしく席を立ったかと思うと、二人分、正確には三人分の会計を済ませ笑顔で手招きをした。
さっきとは違う、色のついた世界が、僕を迎え入れる。
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