空を忘れた天使は

9/12
前へ
/12ページ
次へ
「似てる?私が?あの彼女に?」 僕が瞬くと、あ。と声を漏らして口に手をあてた。 眉を下げて、子供のように舌を出す。 「実は聞こえちゃったの。会話、全部。私の席そこだから」 そう言って、僕のすぐ斜め後ろの席を指差す。 派手な会話が聞こえて振り返れば、何と片方は知人で二重に驚いた事を困り顔で彼女は語った。 「ごめんね?本当は黙って去るのが一番かなと思ったんだけど……放っとけないっていうか、何て言うか」 顔の前で両手を合わせて、こちらを伺うように上目を覗かせれば、怒れるはずもない。 もとより、怒る気もないのだけれど。 「いいんだよ。ありがとう」 叱られた子犬のように愛らしい彼女に思わず口元が綻んだ。優しく言ったつもりだったけれど、対する彼女はみるみる怒気を帯びていく。 「あーもう辛気臭ーい!!」 弾けたように叫び声を上げて、立ち上がった。 「こういう時のためにカラオケがあるんでしょう!パーッと騒いで忘れよう!」 「いや僕は大丈――」 「聞いてない!」 そして慌ただしく席を立ったかと思うと、二人分、正確には三人分の会計を済ませ笑顔で手招きをした。 さっきとは違う、色のついた世界が、僕を迎え入れる。 _
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加