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「安藤ー」 「はい」 「井上ー」 「はぁい」 ざわざわと生徒達が私語をするなか、そんなこともお構いなしに気だるげに出席が取られる。 今日は非常に天気が良い。 5限目の授業は憂鬱になる。 しかも担当が一々授業始めに出席を点呼で取るような教員なら尚更だ。 そこに窓際の席で春特有の柔らかい日差しにあてられれば嫌でも眠気を煽られる。 高橋直人は頬杖をついたまま欠伸をかみ殺した。 もうすぐ新入生歓迎会がある。 最近は放課後になると連日その打ち合わせをしつこいくらいに繰り返している。 ここは男子校だし、男しかいない中そうそう盛り上がるようなイベントでもない。 直人は、マニュアル通りに進行するだけの事になぜこれほど確認する必要があるのか疑問の念を抱く。 直人は少し疲れていた。 「椎名ー」 「はい」 「清水ー。……清水は休みかぁ?」 教師の問いかけにクラスのさざめきが静まる。 直人はそこで我に返った。 「先生ー清水はサボリでーす」 生徒の一人から発せられた言葉に、教師は苦々しく顔をしかめた。 新学期が始まって、もう何回この言葉を聞いたか。 恐らく両手だけでは足りず、足まで使わなくてならないだろう。 「またか。しょうがないな……高橋」 「はい」 直人は短く返事をして立ち上がる。 恐らく連れ戻してこいとの命が下されるのだろう。 全く良い迷惑だ。 内心でこっそりと舌打ちをした。 「悪いが清水の奴を探してきてくれないか?」 「……わかりました」 毎度の事にいっそ慣れてしまいそうだ。 教室を出ると、直人は深く溜め息をついた。 晴天日の5限目。 彼が居る場所は大方の見当がついている。 「……面倒臭い」 そう呟きながら、直人は彼の元へ向かった。
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