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授業中の廊下というのは、当たり前だが人も居らず、ざわめきもない。 それは当然気味の良いものではない。 直人は歩調を速めた。 全く忌々しい。 授業を受けたくないのなら、わざわざ高校へ来る必要がないだろうに。 高校3年生という大切な時期に授業をサボる意図が解らない。 たかだか遊びたいという口実のために、親に多額の授業料を払わせることに何も思わないのだろうか。 直人には到底理解ができなかった。 「勉強したくない奴はさっさと辞めてしまえよ」 そうしたら僕だって、くだらない奴の捜索を任されることなく授業に専念出来るのに。 直人は一人そう呟きながら、いつの間にか到着していた目的地への扉を開いた。 屋上は想像通り柔らかい風が吹いており、昼寝をするにはもってこいだ。 そこには想像通り、清水恭平とその愉快な仲間達が紫煙をくゆらせていた。 「授業始まっているんですが、清水君」 直人は扉を閉めて直ぐの所から恭平達に声をかけた。 「おい恭平!お前んとこの委員長様がお呼びだぜ!」 「ギャハハ、ホントだ。短い自由だったなぁ。清水?」 下品な笑い声をあげ、悪びれた様子も見せずに大っぴらに煙草を吸う少年達に、直人は一瞬の目眩を感じた。 直人は煙草の臭いが生理的に苦手なのだ。 反射的に顔をしかめ口元に手をあてた。 恭平は肺に吸い込んでいた紫煙を輪にしてゆっくりと吐き出すと、ようやく直人に顔を向ける。 「お前さ、人と話すときは距離を取れって教えられてんの?」 「なに……?」 予期していなかった恭平の問いかけに、直人は知らず身構えた。 3年に進級して以来、直人は何度か恭平を教室へ強制連行しにきていたが、そんな質問はされたことが無かった。 いつも同じ場所から同じ台詞を直人が恭平に向かって言う。 それに対して恭平が素直に付いてくれば直人は先を歩いて教室へ戻るし、『行かない』と言われればさっさと一人で教室へ戻っていた。 今日も同じ事が繰り返されると、そう思っていたのだ。 「いっつも遠いからよ。それとも脅えてんの?」 そんな直人を意に介さず、恭平は淡々と問いかける。 恭平の言葉に一緒にいた少年達は声をあげて嗤った。 直人は忌々しげに口を開く。 「……苦手なんです。紫煙が」 「あっそ。じゃあ消してやるからこっちに来いよ」 恭平は自分の座っている地面に煙草を押し付けて火を消すと、直人の方へ向き直った。
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