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『脅えているのか』と問われれば、直人は確かに恭平を恐れていたかもしれない。
ただし、彼はそのプライドの高さ故にそれを否定した。
「僕は早く授業へ戻りたいんです」
「だったら早く来いよ」
周りの友人達も、とっくに煙草を消してニヤニヤと直人を見ている。
直人は下唇を噛むと、内心で面倒臭い、と舌打ちをした。
それでもここで引いてしまえばそれは負けを意味することであり、プライドが許さない。
彼は拳を強く握ると、恭平のいるフェンスの方へと足を踏み出した。
そのまま一歩一歩近付いていく。
接触するまであと40センチほどという距離を残して直人は立ち止まった。
恭平は依然座っているため、直人は必然的に恭平を見下ろす形になった。
「……来たな」
「それで、行くんですか?行かないんですか?早く決めて下さい」
「焦んなよ。とりあえず目線合わせようぜ」
人差し指を上下に動かして、恭平は直人に座れと促す。
直人は渋々と地面に膝を付くと、視線の高さを恭平に合わせた。
その途端、直人の顔面にむかって手が伸びてきて視界いっぱいに広がる。
殴られる。
そう直感した直人は目を固く閉じた。
しかしいくら待ってもそんな衝撃は襲ってこず、その手はただ直人の眼鏡を奪って去って行った。
意図が解らず直人は目を開く。
ぼやけて歪んだ視界を精一杯凝らして見た恭平は、たった今手に入れたばかりのアイテム、『直人の眼鏡』をかけていた。
「伊達じゃねぇんだ。結構キツいな」
「伊達で眼鏡をかけるような無駄なことはしませんよ。面倒臭い」
「ふーん。こいつらなんて無駄にお洒落眼鏡持ってっけどね」
「お前うるせぇよ。だいたいんなメタルフレーム眼鏡、洒落な訳ねぇだろーが」
霞んだ視界に、直人は吐き気をもよおした。
恭平は眼鏡を右手で外すと、左手の指を2本立てて振ってみせる。
「見えてんの?これ何本?」
「ギャハハ!恭平、その距離で聞くかよ!」
「2本でしょう。良いから返して下さい。遊んでいる暇はないんですから」
直人は眼鏡を取り返そうと恭平の右手へ手を伸ばす。
しかしその手は恭平の左手に掴まれ阻止された。
「離して」
「委員長さ、お前、よく見ると整った顔してんね」
「うそ、どれどれ?」
「ほら」
恭平は直人の眼鏡を隣に座っている友人の手に預けると、開いた右手で直人の鬱陶しく伸びた前髪をかき上げた。
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