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「っ……やめろっ」 「あ、ほんと。割と小綺麗な」 「だろ?」 直人の顔は、母親似だと幼い頃から良く言われた。 直人は自分の顔が嫌いだった。 母親に良く似たこの顔に、ある種の憎しみすら抱いていた。 それ故に、どんなに不便でも眼鏡からコンタクトには変えなかったし、視力の低下を促進しようと前髪を伸ばすのは止めなかった。 ついでに言えば、直人は人に触れられるのも苦手だ。 それを知らない恭平は、直人が吐き気を堪えているのも気付かず呑気に仲間達とニヤニヤ笑っている。 そう思った瞬間。 直人の心の中に、言い知れない怒りがふつふつとこみ上げてきた。 「前髪切っちゃえば?」 「んでコンタクトにしちまえよ」 「……いい加減にしてくれませんか?」 自分でもぞっとする程、恐ろしく冷たい声音で直人は言うと、眼鏡を引ったくるようにして奪い返した。 すくっと立ち上がると眼鏡をかけ直し、眼鏡のブリッジを押し上げる。 「茶番には付き合っていられない。君は授業を受けるんですか?受けないんですか?」 直人の豹変ぶりに、恭平は一瞬瞠目したが、すぐに余裕たっぷりの笑みをもらす。 直人が立ち上がったのに合わせて、今度は恭平が立ち上がった。身長が171センチある直人は、決して小柄ではないが、恭平の方は183センチもの長身だ。 必然、直人が見上げる形となった。 鋭い眼光を放つ恭平に上から睨まれれば、大抵の人物は一瞬竦む。 だが直人は怯まなかった。 それほどまでに頭に血が登っていたのだ。 「戻った方が良いんだろ?」 「当たり前でしょう」 「じゃあキスして。そしたら戻ってやる。ついでにこの先の授業も真面目に出てやる」 静かに、とでも言うように恭平は人差し指を立てて自分の唇に触れた。 直人は鼻で笑うとその提案を一蹴する。 「ふん、馬鹿馬鹿しい」 「できねぇの?下手とか?」 言った瞬間、恭平は直人に思い切り睨み付けられた。 直人は恭平の胸元を勢い良く掴んで自分の方へと引き寄せる。 「言っとくけど約束は守って貰うからな」 唇が触れそうな程ギリギリで直人はそう言うと、そのまま重ねる。 掠めるように触れた後、再び唇は離れていった。 時間にしてみれば、1秒あるかないか程度の短いキス。 それでもキスはキスだ。 直人は恭平を突き飛ばすようにして強く掴んでいた襟元を離す。 恭平は反動で一歩後ろへと後退した。
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