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「私は…いいです」
初めて聞いた女性の声は、消え入りそうな程小さかったが、はっきりと拒否の意思表示は菜摘に伝わってきた。
「そうですか…じゃあ疲れたらいつでもソファを使って下さいね。私が言うのも変だけど」
笑みをこぼしながら話す菜摘とは目を合わそうとはせず、女性は小さな声で、はいと言った。
菜摘はソファに戻り、今度は優に話しかけた。
「早く天気が良くなるといいのにね。おばあちゃん、きっと待ちくたびれてるわよ」
おばあちゃんというのは菜摘の母親にあたる人物だ。
優と菜摘の母親は、会った回数が少ない為、優にとってはそこまで親しい親族ではなかった。
おばあちゃんに会えるといっても、優はそれほど楽しみにもしていなかった。
男性客は相変わらず二人で話し込んでいる。
聞こえてくる会話から予想すると、二人はどうやらキャンプの目的で、菜摘の実家のある島へ向かう予定だった様だ。
現地にはすでにキャンプ道具を持った友人二人が着いていて、足止めをくらっているこの二人を待っているといった具合だ。
ソファに座る四人はそれぞれ、他愛もない話をして時間を潰していた。
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