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サブマリン・ホテルは元々、当時流行っていたリゾート開発に便乗して作られたホテルだった。
パンフレットには確かに綺麗な海と豊かな自然が写されている。
しかしバブル崩壊と共に、この島への定期フェリーの便数も減り、客足も遠のいていった。
徐々にホテルは経営難に陥り、今ではオーナーの妻である佐々木美智子がたった一人でホテルを切り盛りしている状況になってしまった。
さらに言うと、厨房には雇われシェフがいるのだが、客の滅多に来ない潰れる寸前のこのホテルは、予約が入らないとシェフが出勤しないという異常な事態を引き起こしていた。
今日はシェフが不在の為、美智子自身が包丁を握らなくてはならない。
美智子はホテルのオーナーと結婚するまで、料理教室の先生をしていた。
食材は週に二回、届けてくれる業者がいるので、そこそこの料理が作れる自信はあった。
何よりも、経営難のホテルを救う為、経費削減だと思えば得した気分になる美智子だった。
しかし、ふらっとやってきた客が一人か二人、宿泊していく事はあったが、同時に六人も宿泊するという事は初めての経験だった。
「よし…!」
美智子は長い髪を束ね、一人で気合いを入れていた。
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