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友人たちとキャンプをする予定を狂わされた事に苛立ちを感じながら、岩谷徹(いわたにとおる)は濃い茶色に染めた長い髪をかきあげ、窓の外を見下ろした。
苛立ちの原因は、中々止まない雨のせいだけではない。
船の運転手が海の天気を外した事に苛立ちを隠せなかったのだ。
その事については、一緒に乗船した浜場幸弘(はまばゆきひろ)に嫌と言うほど愚痴をこぼしていた。
浜場は温厚な正確で、何事にも流れに身を任せる事のできるタイプだった。
岩谷の怒りを鎮めるように切長の細い目を綻ばせて言った。
「まあまあ、リゾートホテルにタダで泊まれるんだから、そう怒るなよ。
貴重な経験をしたって、帰ってからみんなに言ってやろうぜ」
岩谷はもう一度髪をかきあげ何度か頷いた。
「…まあ仕方ないか。あの運転手が金を払うと思えば気も晴れるかな」
しかし岩谷にはどうしても解せない事があった。
おそらく船の乗客、五人全員が思っている事だろう。
なぜ運転手は全員の宿泊代を払う気になったのか…。
自分の分も合わせて六人分、しかも悪天候が続けば一泊だけとは限らない。かなりの額になるはずだ。
ただの罪悪感であっさり支払いを請け負うだろうか――
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