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菜摘は、慌てて男性客二人が椅子に座ったのを見た。
その瞬間、船は大きく揺れ始めた。
まるでシーソーに乗っているかの様な激しい揺れは、とても立っていられる状態ではない。
優も口を一文字に引き締め、船の揺れに耐えている。
空はいつの間にか灰色の雲に覆われ、いつ雨が降りだしてもおかしくない天気だ。
「こんな天気になる事ぐらい…わからなかったのかしらね」
優を元気づける為に言おうとした言葉は、運転手への愚痴になってしまったが、優はそんな菜摘を見て、苦笑いを見せた。
「この船…沈まないかな…?」
半分冗談、半分本気で尋ねてくる優に、菜摘は大丈夫よと励ましの言葉を返した。
「非常に天候が悪くなって参りました。一旦近くの島に船を着けますので、申し訳ありませんがしばらくそこで天候の回復を待ちます」
この状況ではやむを得ない運転手の提案だったが、男性客は大声で不満を漏らしていた。
菜摘も、実家にはすでに連絡してあったので時間がずれる事に不満を言いたかったが、この天気では仕方がない。
諦めて運転手の言う通りにする他なかった。
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