花瓶

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数分後には警察が駆けつけ、生徒は全て体育館に集められた。そして、クラスごとに名簿順に並べられ待機命令に従う。ざわめきはなくならない。 そして体育館に漂っている妙な雰囲気と、避難訓練とは桁外れの緊張感と先生方の焦りが“これは現実なんだ”と示していた。 しかし、そんな中でも人間というものは暇を感じるらしい。達也のそばの、他クラスの女子が世間話を始めた。 『聞いた聞いた?さっきの死体、昨日死んだっていう佐倉裕司だったんだって』 『え?裕司は昨日……』 『あたしもさ、さっきのは流石にイタズラだと思ったんだけど。見に行った詠美が言うにはさ、間違いないって』 『ホンモノだったんでしょ?……死体見に行くとか詠美……ちょっとヒクよねーありえないって』 “詠美” 達也にも隣の友香にも、それは初めて聞く名前だった。 話していた生徒達は、ケラケラと笑って続けた。 『んでね、もっとすごいの手に入れちゃった……ほら』 そう言って、その女子生徒が取り出したのは、携帯電話だった。 一台の携帯電話を数人で覗き込み、歓声を上げ始めた。コワイ、キモイ、グロい……。 何だ? 達也が、ふと周りを見回すと、携帯電話を囲む生徒が意外にも多いことに気がついた。 何を見ているかはわからない。しかし不愉快だった。 不快極まりない。
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