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『…………何で知ってるわけ?友香んちのこと』
『調べたのか?』
『さすがは斉藤達也さん』
『……俺の事も、知っているのか』
『私の裕司サンと関わりのある人は、皆知っています。』
少女は、すっと手を伸ばして達也を指指した。
『極普通の家庭。サラリーマンの父、専業主婦の母。高校受験を控えた妹がひとり。受験生がふたり……この不景気に……お父様も頑張り時ですね』
そのまま手をスライドさせて今度は友香を指差す。
『あなたが裕司サンに数学を教えてくれていたら、あの人は赤点じゃなかったのに。そうしたら………』
そこで言葉を切り、にこっと笑った。
『そうしてくれていたら、あなたがたの学年トップの座だって危なかった……だから"敢えて"教えなかった?』
『あんた、本当に嫌なやつね。エイミーちゃん?
『ありがとうございます』
少女は見かけは美しいにしても、ひどく嫌な奴だった。これじゃあ敵もつくる、友香も達也もそう思った。
友香は詠美に掛けいた手を戻し、憎しみをこめた目で睨んだ。携帯電話はまだ返していない。
そんな友香など後目にもいれず、詠美はうっとりとして続ける。
『祐司サンは素敵でした。だってあんなに美しくて頭のいい先輩は見たことありません。自慢の彼氏でした』
フフフフ…とは笑い、達也を見つめた。
『……でも、昨日死んでしまった。惜しい限りです。…女にでも呪い殺されたのかもしれませんね』
『…な……』
2人の訝しげな目線がより一層強まり、強い光を宿した。その変化すら目の前の少女は楽しんでいる。
『何であんたそんな事言えるわけ?』
友香はもう普段の友香ではなかった。いつもの甘ったれた喋り方など微塵も感じさせず、凄んでいた。
詠美はそれでもまだフフフと微笑んでいた。
『私は裕司サンにとって、たくさんいるうちの一人でした。でも、決してその状態に満足していたわけじゃありません。憎んでもいたんですよ。愛してるんですけどね』
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