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達也の頭は、驚くほど冷静に働いていた。友達の死について論じているとはとても考えがたいほど、まるで他人ごとのように淡々と語った。
『“屋上から落ちた遺体が祐司本人だ”ということを疑う必要がある』
『何故ですか?…写メを達也さんは見てらっしゃらないから、信じられません?』
『そうじゃない。宗教上の理由だ。祐司の家の宗派では、人が亡くなった時、通夜から次の日の葬式の日までの間は、蝋燭を消さずに誰かひとりは故人の部屋に付かなければならない。だから、誰にも気付かれずに遺体を盗み出すことは不可能に近い』
詠美は、素直に納得できないようだった。
無理もない、宗教の違いというものは考え方の違いに直結する。そのせいで現代にも宗教戦争が存在するのだ。
達也は小さくため息をつき、自分の家も祐司の家と同じ宗派だと補足した。
『……うっかり目を離したっていうことは?』
『例えトイレに立った人が居たとしても、来客に気づかない家族がいるだろうか?
それに。長い間トイレに籠もることを予想したなら代役を立てて部屋を去るだろうし、僅かな時間内で男の死体を担ぎ出す、というのは厳しいものがある』
『……学校に運ぶ以前に、家から連れ出せない……ってことですか…』
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