I CAN FLY

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数分後、一同が着いた場所は高層マンションの一室だった。 いらっしゃい、と迎えた女性は30代初頭だろう。ひとりでこんな部屋に住める人の職業はなんだろうか、とその女性の美しい黒髪を見ながら達也はふと思った。 部屋の調度は上品で高そうなものばかり。けれども、そんな部屋に目もくれずに走って窓に張り付く裕司と、急に大人しくなって礼儀正しく振る舞う友香を見て、行動は違えど二人ともイイところの令嬢と子息だということを思い出さざるを得なかった。 この高層マンション。飛び降りの現場から、さほど離れてはおらず、ベランダからは自殺志願者の一挙一動が見えた。遠目ではあったが、どうやらホシは女性らしい。 『満里奈さんありがとう』 イケメンの目一杯の笑顔に、女性の頬が緩む。頬がほんのりと紅く染まった。 『いいのよ、祐司くんがお友達を連れてきてくれて楽しいわ。』 部屋はいい匂いがした。それは満里奈のつける香水の香りなのだろうか、芳香剤の香りだろうか。いずれにしろそれは自分とは違う、上流階級の匂いだった。 『……でも、みんな好奇心が強いのね。自殺の現場がみたいだなんて、ね』 満里奈は、柔らかい笑顔のまま、達也に同意を求めた。 達也が笑顔で肯定すると、満里奈は殊更笑顔をつくった。 『達也くんは頭がいいんですってね。素敵なことね。ぜひ、また遊びに来て私とお話でもしてくれないかしら』 友香は眉を思いっきり吊り上げて、飲みかけの紅茶を受け皿にガチャンと音を立てて置いた。 満里奈が、その音に顔をしかめていた。はしたない、目線がそう責めているようだ。 『あっ、ごめんなさーい。友香、猫舌で…まさかこの時期に熱い紅茶が出ると思ってなくて、油断しました』 『あらごめんなさい?私は熱い紅茶が好きだから…。今度あなたが来たら、アイスティーをご馳走するわ。“今度があったら”だけど…、ね』 達也には、笑顔で会話をする女同士の間に火花が散ったように思われた。しかし祐司は、知らんぷりで菓子に手を伸ばしている。 避けて通れる修羅場には、首を突っ込まないらしい。 『…そ……外、騒がしくなってきましたね』 達也は、出来る限り、思い出したよう見せかけ、外の様子に言及した。 それは、ほんの少し焦りの見える話し方だったが、それしか女2人の注意を逸らせるネタが思いつかなかったのだ。
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