I CAN FLY

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『満里奈さん、ベランダ借りるね!』 達也の言葉に、祐司は目を輝かせた。そしてバタバタと走りながら、ベランダから身を乗り出した。とりあえず、祐司の気を反らすことには成功したらしかった。 けれども残念ながら。 残された部屋は、殺伐とした空気が、より一層濃くなったように思われる。 『友香さん…だったかしら?あなたは、もうお帰りになったほうがいいんじゃないかしら』 『何でですか?最近物騒だから一人で帰るのは、嫌です』 『あなたみたいな子が狙われるとでも?』 『年増よりは。』 『ゆ……友香…!ベランダに出よう。お前だって見たかったんだろ?』 そんな達也の言葉に、友香はピシャリと言い返した。 『達也くん煩い。祐司くんとこ行ってて』 達也の言葉に、耳を貸す女性陣はいなかった。笑顔を崩さない満里奈に、今にも殴りだしそうな友香。 この2人だけを同室に残すなんて出来ないとは思ったが、このまま居ては胃がもたない。 達也は早々に諦め、祐司のいるベランダに出た。 『お、二番のりはお前か。珍しいな、友香に引きずられて来るかと思ったのに』 『………………その友香が来ないって言うんだよ』 『へえ!珍しい!!!明日は雪だな』 スピーカーから聞こえる交渉人の声が、ほとんど悲鳴に近くなった。そして、それとは逆に、野次馬達の歓声は一気に高まった。 ……飛び降りる。 2人がそう思った瞬間、自殺志願者の女性の体はビルから離れた。 ゆっくり、ゆっくりと落ちていく。 時間にすれば一瞬の出来事が、とても長く感じた。 女性の体が他のビルに隠れた後すぐに、どん、という地響きが。 その後には、何も音がしなかった。野次馬や蝉の声も、街の雑踏も全ての音が消えたのだった。 そして、すとん、と祐司が腰を抜かした。 『祐司……?』 『…あ……悪い。腰抜けた』 部屋の中からパタパタと足音が聞こえ、ベランダの戸が、ガラリと開いた。満里奈さんだった。 『やだ祐司くん。そんなとこに座ったら汚いわよ』 『あ…すいません』 祐司は誤りながらも、なかなか立てなかった。 『……それとね、申し訳ないけど……そろそろ主人が帰ってくるのよ』 そういって満里奈の頬に添えられた彼女自身の左手には、指輪が光っていた。
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