182人が本棚に入れています
本棚に追加
五時を示す“かごめかごめ”のメロディーが街に響いている。
荒い息づかいとともに、達也も屋上に姿を見せた。少し遅れて友香、満里奈もやってきた。
『来るな……来るな…』
『………祐司?』
『来るな!!!!』
一歩踏み出した達也に、祐司から厳しい叱咤が飛んだ。
『……終わり…だ』
祐司は、どこか浮ついた様子で安全柵を乗り越えた。このマンションは11階建てであり、もし落ちたら命はない。
『祐司くんダメ!!!』
友香の叫びも届かない。
『待てよ!』
達也も安全柵を乗り越え、祐司と同じ、地上11階の恐怖の上に立った。吹き付ける風が、直に体を揺らし、バランス感覚を奪った。
『祐司…!』
『もう終わりだ。もうダメだ。もう終わりだ。もうダメだ……』
いつもの飄々とした祐司はどこにもいなかった。今の祐司は、何かに恐々としていて周りが見えていない。
風が弱まるとその傾向は増し、『かごめかごめ』を口ずさみながら、少しずつ地上に近づこうとしていた。
何故こんな…
その疑問は、その場にいる全員の頭をよぎった。
そしてその時。街に響く“かごめかごめ”の唄は消えた。
『………あれ…?』
『祐司?』
『ちょっと達也ここ……って怖っ!!!!え?何?ここで何してんの?』
突然、祐司の様子が元に戻った。呆気に取られる達也をよそに、祐司はひとりでに柵を乗り越え、友香達の所へ戻って行った。
『祐司くん!!何やってんの。友香、心配したんだからね!』
『はあ?お前、何言ってんの?』
『祐司くん。悩みがあるなら、厄介なそこのお嬢さんに言えなくても、わたしに言ってくれたらいいのに…』
『え、何がですか?話見えないんですけど…』
『達也!!』
友香は走り出し、達也に抱きついた。その様子を満里奈は、目を丸くして見つめ、軽蔑の視線を送った。
『友香、一瞬だけ心臓が止まったの。また動いたからいいけど…ずっとその繰り返しだったんだから!あんまりびっくりさせないで』
『…その心臓は、鼓動だろ。止まったり動いたりはポンプがな…』
そこまで言って、達也は友香が自分の話など聞いていないことに気づいた。まっすぐ前を向き満里奈と睨み合う友香に。
最初のコメントを投稿しよう!