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『気が多いのは、あまりよくないと思うわ』
友香の正面に立った満里奈が、にっっこりと笑いながら言った。
『そうですね。友香もそう思います。浮気とかって最低ですよね』
してやったり、そんな満足げな表情が友香からは見て取れた。なぜこんなにも女性同士が火花を散らしているかは、わからない。けれども、“女という生き物は案外こんなものなのだ“と、達也は1人、納得していた。
一方、友香に『浮気者最低』と罵られた満里奈は、カァッと顔を赤らめ、高校生一同に背を向けて歩き出した。
その後ろを祐司が急いで追い、その後ろでは達也と友香が談笑しながら帰ろうとしていた。皆が先程の祐司の一件を忘れているかに思えた、その時だった。
『うわっ!!!!』
つるり。
階段から、祐司が足を滑らせた。
屋上へと続く長い階段は、容赦なく祐司の体を痛めつけながら落としていく。体を打ち付ける鈍い音が、何回も何回も聞こえた。まるで地獄の底へと飲み込まれるかのように、祐司は無抵抗に墜ちていくしかなかった。
祐司は、倒れたまま動かない。
耳をつんざく友香の叫び声がコンクリート造りの階段に響いた。
しかし、達也は背筋を凍らせながら、友香以外の声を聞いていた。
地を這うような女の声で
邪魔をするな
という声を……。
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