バレンタイン

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 夕日が覗く、とある高校の教室。その教室の中は冷や汗を流す「ゆーくん」こと悠輔と、頬を赤らめる「りんちゃん」こと凛が対峙していた。  青春の匂いを残す教室は二月十四日の午後五時を迎えており、二人以外の生徒は既に教室から去っていた。今日は男にとっても、女にとっても、特別な日。こんな日にいつまでも教室に残るのは野暮というもの。このクラスの生徒たちはそれぞれ、思うべき場所へと向かっている。いや、それは自然ではなかったと いえるかもしれない。  凛は、昨日、悠輔以外の生徒たちに、教室を使いたいから、五時までには別の場所に行ってほしいと頼んでいたのだ。理由を語るも、聞くも、無意味。二月十四日に二人になりたい、その願いは一つの意味に辿り着く。  その願いを叶えさせてやりたい、その気持ちがクラスのほかの生徒たち全員に発生した。そういう事情により、このシチュエーションは生み出された。 「ゆーくん……」  凛はもじもじとしながら、悠輔にすり寄る。 「あー……」  悠輔は頭をぽりぽりとかきながら、その凛をじっと見る。  悠輔と凛は昔からずっと一緒だった。幼稚園も、小学校も、中学校も、そいて、高校も。幼稚園に入る前からの付き合いもある。俗にいう幼馴染というものである。重なる思い出は数えきることができず、共に過ごした時間は家族と同じくらいとも言っていいくらいだろう。  だからこそ、こういった雰囲気、こういったことになることは、悠輔も予想はできていた。
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