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「今日さ、その……えっと……」
わざとらしく髪をいじる凛。一度も染めたことのない純粋な黒髪は長く、ふぁさり、と凛の制服を撫でている。凛は制服なのだ。二人が通う高校は私服許可の、制服がない高校だが、制服を着ることが長年の夢だった凛は、制服を購入し、それを着て学校生活を送っている。その制服がまた、可愛らしく、凛に似合 っている。
「バレンタイン……でしょ?」
「そうだな」
悠輔はあっさりと答える。悠輔としては、この先の展開は完全に読めている。昨日、凛が徹夜してチョコレートを作っていたことも知っている。何度もためらいながらも、この教室に自分を呼び出していることも知っている。凛の気持ちもまた――既に理解している。
「それ、でね……ゆーくん……」
「……ああ」
教室の空気がとろける様な雰囲気を凛がかもし出す。それでも、悠輔にとっては、凛はそういった意味での、特別な存在ではない。だから、空気に呑まれるということはない。
凛がうん、と大きく頷いて、
「これ、チョコレート。……本命、だよ? 私にとって、ゆーくんは他の誰よりも……大本命。だって、私は……ゆーくんのことが、大好きだから。ずっとずっと、好きだったから。だから、ゆーくん……私を、彼女にしてください――」
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