バレンタイン

5/6
前へ
/6ページ
次へ
 後ろ手に持ったピンク色の紙袋を悠輔に手渡し、目をぎゅっと瞑って、告白する。  自分の、確かな、気持ちを。  けれど、 「りんちゃんさ、ごめん。俺はりんちゃんをそういう風には見られない」  はっきりと、悠輔は凛に告げる。  しかし、凛は引き下がらない。 「ゆーくんも知っているでしょ? ゆーくんのこと、ずっと好きだったんだよ? ゆーくんと一緒にいたくて、この高校に入ったんだよ? ずっとずっと、一緒だったじゃん……」 「それは――」  悠輔が口を開けた瞬間に、凛がそれを塞ぐように、言葉を繋げていく。 「十一年前の約束も、覚えている……でしょ?」  十一年前の約束。  けっこん。  約束。  悠輔の頭の中に二つの単語がくるくると回る。けれど、それを振り払うようにぶんぶんと頭を左右に揺さぶった。約束は確かに、した。それでも、それでも―― 「約束はした。したよ。それに、お前はかわいいよ、それも認める。お前がずっと俺のことを好きだったのも知っていた。十一年前から、ずっと、ずっと知っていたよ。それでもな、この学校の生徒なんだよな、りんちゃんは……」 「うん、ゆーくんと一緒が良かったから」  それを聞いた瞬間、悠輔はたらりと冷や汗を背中を伝ったのを感じた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加