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南條先輩から誰も使わない非常階段に逃げてきた。本館とは違い別館は人通りがなく、非常階段は1人になれる絶好の場所だ。階段に座り、そのまま横の壁にもたれ掛かった。
瞼を閉じ遠くのざわめきを心地よく感じながら大きく深呼吸をする。
これは俺が1人になりたくて此処に来た時、必ずする事。それを繰り返しやっていると非常階段のドアがゆっくりと開いた。滅多に人が来ない此処に、しかも俺が居る時に誰かが来た事に驚き、その人物へと目線を動かした。
艶のある漆黒の髪はウルフカット。
漆黒の瞳を持つ目はくっきりとした二重。
すっきりと通る鼻筋。
形の良い薄い唇。
シャープな輪郭。
長身で細身の身体に、清潔感溢れるYシャツからでも分かる、程よくついた筋肉。
ジーンズのよく似合うモデルの様な長い脚。
こんなにも完璧な容姿を持った者を見たことがなかった。
『……。』
息を飲んで只見つめていた俺に相手は呆れた顔を見せた。
「…何?」
そいつは鞄から本を取り出しながら俺が座っている所から3~4段離れた反対側に腰を下ろし横目に俺を見て問い掛けた。
『あっ!いや、ごめん。只、かっけぇ~なぁ~と思って…。』
俺がそう言うと、そいつは気にする事もなく手元の本に顔を向け呟いた。
「そりゃ~ど~も!!俺からしたらアンタは、かなりの女顔だな。」
『なっ!俺は女顔じゃねぇ!』
俺の中では禁句と化している用語を言われムキになった俺にそいつは人をバカにした様な笑みを浮かべた。
「ムキになると、ますます女に見えるぞ。」
『なっ!!』
“女顔”から“女”にされた俺は頭に血が上りかけたが、一先ず落ち着く事にした。
しばらくして何時もの冷静さを取り戻した俺は未だ知らないそいつの名前を聞く事にした。
『なぁ?名前なんつうの?…俺、寺嶋悠哉。よろしくな。』
今だ本の文字を目で追っていたそいつは一旦それを止め、こちらに顔を向けた。
「……五十嵐龍士(イガラシリュウジ)…。」
質問以外の返答はせずにそいつの口から出た名前を俺は聞き覚えがあった。どこかで聞いた様な気がした。口に出さずとも顔に出ていたのか五十嵐が口を開いた。
「同性愛者。」
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