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元亀元年四月二十八日未明
馬上の壮年の武将はいらつきながら兵を叱咤していた。
「急げ!急ぐのだ!」
山間の隘路のうえ、まだ夜明け前で慣れた道だというのに、思うように速度がでず焦っていた。
兵はよく鍛えられているらしく、各物頭からの命令に忠実に従い駆けている。
その武将に、
「これ以上早く駆けさせるのは無謀でござろう!」
と、老年の武将が話しかける。
「しかし、殿も思い切った事を…」
独り言のように呟いた時に、前方より使番が駆けてきた。
「殿!」
呼びかけられた武将は顔を向ける。
「先陣の員昌殿より使番です。」
「すでに、信長様に事の詳細をお伝えし、佐久間、林両隊を反転させる、との事でございます。」
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