プロローグ

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   年も明けて早一ヶ月が経った。  今やもう正月ボケで騒ぐ者など皆無で、ましてや節分なんぞ通過儀礼のような扱いで行事に組み込まれ、鬼にも同情したくなるこのシーズン。  男女の多くはもはや来たるべき別のイベントに色めき立っている。  2月14日がその日と知ってなお表情に出さないよう懸命に堪える男子を、果たして女子は恋心をくすぶるように密やかに見つめているに違いない。 「所謂バレンタインって奴ですよ、兄さん」 「誰が兄さんだ」  ハジメとサンタは珍しく肩を並べて帰宅していた。  珍しく、というのもハジメの方は部活があるし、サンタはサンタでサッカー部の幽霊部員でありながら、いろいろな部活(主に囲碁・将棋やコンピ研)などを回遊しているから、同じ時間に下校することもあまりなかったからだ。  今日はどういうわけか部長からハジメに部活中止が言い渡され、何となく暇だったサンタを捕まえて下校しているというわけである。 「別に欧米じゃあるまいし、男子が色めく必要はないだろ」  ハジメが白いため息を吐きながら言った。  しかし、サンタは力強く反論する。 「いいや、ある。大いにある! チョコを貰えるように今からアピールすべきだ!」  本格的なアホがアホな事を言ってるようなので、ハジメはマフラーに鼻まで埋めながら、春を待ち焦がれる狐のようなため息をついた。 「いや、なにそのあからさまなため息」 「寒いなーって」 「そっちは良いよね、貰えるアテがあるからさ」 「お前だってあるだろ」 「まあ幼なじみくらいかな」  それならハジメも似たようなものだった。  しかし、貰えるのがわかっているというのも何だか貰った気がしないものだ。安心はするが。  だからといって沢山貰いたいわけでもなく、まあ、義理でもいいからそこそこ貰えればいいかなどと、去年よりは一般的な男子らしい欲を持つまでにはハジメの心情も変化していた。 「だから、アピールしようぜっ」 「寒いからパス」 「一蹴かよっ。って言うか、校内はそんな寒くないじゃん!」 「あー寒い」  サンタの言動に時折ツッコミを入れつつ、下校する雪道。  寒いが、まあそれなりに平和だった。  
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