第二章

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   無論、登校中にチョコを渡されることなどなく、ハジメもサンタもとりあえずは無事下駄箱に到着した。  古来からの受け渡しの王道たるその四角い箱に、最大限の期待を寄せる友人をハジメは生暖かい目で見守った。 「ん~……くぁ! ないか!」 「まあ、そうだろうな」  当然のように、ハジメの下駄箱にも上履き意外は砂埃くらいしか入っていなかった。  まだ朝一であるし、何もそんなに落胆するような事でもない。焦る時間帯でもない。  二人は早々に諦めて教室へと向かった。  この日ばかり男子と女子の間に明らかな境界が張られる。日頃から親しい男女間でさえ落ち着きがない。  また、無理に落ち着こうとして逆にぎこちない生徒もちらほら。  もちろん、本当にバレンタインなど完全に眼中にない生徒もいるようだが。 「いや、若いっていいね」 「まあ、そうだなぁ」  二人揃って教室に入り、何となく女子と目を合わせないように席につくハジメ。  逆にサンタは先日言っていたアピールのつもりか、そこいらの女子をなめ回すように眺めていた。  そんな折りに、嵐のような圧倒的存在がドアをぶち壊さんばかりに開け放って登場した。  クラス中の視線を集める中、赤絨毯の上を歩くかのような堂々とした佇まいで、まっすぐハジメのもとにやってくるのは、ハジメの所属する新聞部の部長であるフタバだった。  満面の笑みと、エナメルコーティングされた赤い紙袋を携えて、早朝の女神は爽やかに挨拶する。 「おはよう、ハジメくん」 「ああ、はい。おはようございます」 「はい。あげる」  女王が臣下に捧ぐ尊きバラの如く真っ赤な紙袋を、公衆の面前で恥じらいなく堂々と差し出す。  さすが、と言わんばかりの圧倒的カリスマだった。  つちのこ探しを命ずるようなトンデモ部長も、今日ばかりはまともな上級生らしい。  ハジメがそれを受け取ると、辺りを静まり返したままフタバは教室から去っていく。  ドアがぴっちり閉まって間もなく、教室はようやく喧噪を取り戻した。 「ふぅ……」  朝一番の姉同様、無駄に疲れさせてくれる。まあ、正直ハジメが確実に貰えるだろうと思っていたアテは今ので全てだった。  サンタも予想はしていたのか、当然のように見届けていた。 「さすがだな」 「ああ……」  短く返事して、紙袋の中を見る。  可愛らしいラッピングの箱が一つとメッセージカードが入っていた。  
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