才能

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 僕の学力は学校中でも随一のものだった。テストの度に周囲からはやし立てられ、結果を見せれば誰もが驚嘆する。僕は最初のうちはそれを誇りに思い嬉しがったが、日が経つにつれて徐々にその感情や周りの反応は薄れてきた。要するに慣れてきたのだ。僕は他より秀でた特別な存在であり、これからそれが変わることはない。それは誰もが認める間違いのないことで、僕自身もそのことに確信を持っていた。  もちろん、それは僕の生まれ持った才能によるものだ。僕は努力など知らず、またその必要もなかった。欲しい物は全て楽に手の届く範囲にあり、手を伸ばしたり探し回ったりしなくとも手に入れることができたのだ。  僕にとって、世界は軽いものだった。誰もが必死になって両手で抱えているそれを、僕は片手で持ち上げながら指先で回している。これが僕に定められた生き方だと思っていた。僕には苦労や努力は必要ない。そして僕はそれらを知らないまま、舗装された道をただ歩き続けていた。
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