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それで僕は、塚本の表情の理由が分かった。僕の勉強道具があまりに乏しすぎるのだ。そこで初めて、僕は自分のした失敗に気が付いた。
「ふうん」
彼は腑に落ちない様子で返事をし、机に目を落とした。
それからしばらくそんな調子で僕たちは勉強を続け、日が暮れる頃に僕はそろそろ家に帰るよと言った。塚本は受け流すように返事をして、玄関まで見送りにきた。
「今日はありがとう、色々参考になったよ」
彼は淡々と言った。赤く照らされた顔に笑顔はない。
「こちらこそ」
そう言って僕はその家を後にした。そして塚本から誘われることは二度とないだろうと思った。案の定、彼から話しかけられることはその後一度もなかった。
彼はあの時、僕に対してどのような感情を抱いただろうか。馬鹿にされたと思っても当然かもしれない。自覚はなくとも、僕はそれに相当することをしたのだ。
そのことがあってから、僕は同じ類の誘いは全て断るようになった。
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